カテゴリー: 系外惑星の紹介

WASP-12b

<WASP-12bの想像図 credit: Haruka Inagaki, Habitable Research Group SHG Moriyama High School >

WASP-12bは、2008年に発見された、太陽系からおよそ1410光年のところにある系外惑星です。質量が木星の1.47倍、半径が木星の1.90倍の巨大ガス惑星ですが、主星であるぎょしゃ座WASP-12からわずか0.0229AU(約345万km)の位置にある「ホットジュピター」です。これまでに数多くのホットジュピターが発見されていますが、その多くは公転周期が2,3日程度であるのに対し、WASP-12bの公転周期は1.09日と、数あるホットジュピターの中でも特に「熱い」惑星と言えます。その一方で、可視光線の94%を吸収してしまう「暗い」惑星でもあります。

この惑星は潮汐ロック状態,つまり地球の月と同様に主星に対して常に同じ面を向けた状態になっています。表面温度は夜側が1500Kであるのに対して昼側は2800Kと非常に高温で、これは主星からの輻射だけでなく、潮汐力の影響を受けています。潮汐力は、地球と月の場合では潮を満ち引きとして観測されますが、WASP-12bの場合は主星と非常に近いため、惑星全体がラグビーボールのような形状に歪められるほど強力で、この強い潮汐力による潮汐加熱が高い表面温度の原因の一つになっています。

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<ExoKyotoを用いて表示したWASP-12bの予想温度と、今までに見つかった系外惑星の推定温度・主星の温度との比較図。*この図ではアルベドを0.3と仮定しているため、実際の温度(2580K)よりも若干低く見積もられている>

また、この潮汐加熱によって惑星内部の温度が上昇することで、惑星大気が木星半径の約3倍まで膨れ上がっており、Shu-Lin Li氏(北京大学)の、「惑星内部の潮汐加熱による惑星の膨張」(Li et al, 2010. Nature)の予言が証明されました。

WASP-12bの重力では、この大きく膨張した大気を留めておくことはできず、主星の重力によって惑星から大気が剥がされて主星に降着していることが、ハッブル宇宙望遠鏡のCosmic Origin Spectrograph(COS)によって観測されています。惑星から剥がされた毎秒60億トンもの質量は、主星の周りに円盤を作りながらゆっくりと降着しています。このように天体間で質量がやりとりされる現象は一般的に近接した連星系で見られていましたが、惑星で観測されたのは初めてです。

WASP-12bは、現在のペースで大気が剥がされていくと今からわずか1000万年以内にガスをすべて失ってしまうとも言われています。ただ人類の歴史に比べれば遥かに長い時間ですので、我々人類がその結末を見る事が出来るかは不明ですが…

(文責:山中陽裕・野津翔太・清水里香)

wasp-12b

<WASP-12bの想像図 credit: Ryusuke Kuroki, Yosuke Yamashiki, Natsuki Hosono>

WASP-12bについての詳しい情報はこちら

http://www.exoplanetkyoto.org/exohtml/WASP-12_b.html

参考情報

NASA “Hubble Finds a Star Eating a Planet”

<https://www.nasa.gov/mission_pages/hubble/science/planet-eater.html> (2020/3/16)

HUBBLESITE “NASA’S HUBBLE CAPTURES BLISTERING PITCH-BLACK PLANET”

<https://hubblesite.org/contents/news-releases/2017/news-2017-38.html> (2020/3/16)

GJ504b

GJ504bの想像図 (Image Credit: Shione Fujita, Habitable Research Group, SGH Moriyama High School)

GJ504bは地球からおとめ座方向に約60光年のところに位置する惑星です。太陽型恒星GJ504から44天文単位の領域を公転周期約100年で周回しています。
その大きさが木星と似た木星型惑星であることから第二の木星とも呼ばれています。また、赤外線波長で17~20等というGJ504の60万分の1以下の見かけの明るさしかありません。

2013年にハワイ・マウナケア山にあるすばる望遠鏡が、GJ504bの直接撮像観測に成功しました。
観測には2009年に搭載された新型コロナグラフカメラ HiCIAOと、地球大気による星像の乱れを補正することで高解像度を達成する補償光学装置が使われました。
また、この惑星は日本の研究チーム(すばる望遠鏡 SEEDS プロジェクト)により発見された歴史的な惑星です。大気中の雲が少ないのが特徴で、近くで見るとピンク色に見えるとも言われています。

一般に直接撮像惑星観測では、惑星の質量は明るさと年齢に基づき進化モデルを介して推定されます。一般に直接撮像観測の場合、トランジットで発見された惑星の分布などとは異なり、若く明るい惑星の方がより多く発見されている傾向があります。しかし若い直接撮像惑星の進化モデルにはまだ不確定な所があり、推定される質量が用いたモデルによって大きく異なるという結果が出てしまいます。一方でGJ504bの場合、年齢が1-5億年前とそれなりに歳を重ねているため、従来よりも質量が精度よく求まり、より高い信頼度を持って木星型惑星である、と結論づけられています。

参考文献:Kuzuhara, M., et al. 2013, ApJ, 774, 11
http://adsabs.harvard.edu/abs/2013ApJ…774…11K

(文責・高木風香 野津翔太)

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GJ504bの詳しい情報は以下のリンク

http://www.exoplanetkyoto.org/exohtml/GJ_504_b.html

HR 8799 b, c, d, e

図1 HR 8799bの想像図と、遠くに見えるA型星 HR8799 (Y.Yamashiki, R.Kuroki & N.Hosono)

2008年11月、地球から128.5光年(39.4 pc)離れたペガスス座にあるA型主系列星HR8799星の周りで、HR8799bという木星の7倍程度の質量を持つ太陽系外惑星が発見されたという報告がなされました(図1:想像図)。観測はハワイにあるケック望遠鏡、ジェミニ北望遠鏡、そしてハッブル宇宙望遠鏡を用いて赤外線で行われており、同時にHR8799c, HR8799d, HR8799eという木星の10倍程度の質量を持つ惑星も見つかりました(図2,図3)。これらは直接撮像観測という、惑星自体の光を直接捉える手法で発見された初めての惑星たちとして有名です。

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図2 HR 8799dの想像図と、遠くに見えるA型星 HR8799 (Y.Yamashiki, R.Kuroki & N.Hosono)

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図3 ExoKyotoで描いたHR 8799恒星系システムとそのハビタブルゾーン(SEAU, 赤色が金星相当軌道、緑色が地球相当軌道、水色が火星相当軌道、青がスノーラインを示す。それぞれの惑星(e-b)推定軌道は紫色)

2010年にはHR8799の周りに、同じく直接撮像観測で4つ目の惑星HR8799eという惑星も発見されました(Marois et al. 2010, Nature)。
更にこれらの惑星たちの発見を機に、過去の画像を再解析してみたところ、実は1998年のハッブル宇宙望遠鏡の観測画像(図5)と、2002年のすばる望遠鏡の観測画像(Fukagawa et al. 2009, ApJ)にHR8799bが写り込んでいたことが分かりました。

Kepler宇宙望遠鏡で発見された惑星を始め、多くの太陽系外惑星はドップラー法やトランジット法といった間接法で発見されています。
一方太陽系外惑星自体からの光を直接捉える手法(直接法)の場合、惑星発見数は間接法に比べ少なめです。しかし惑星からの光には惑星大気に含まれる分子の吸収や惑星表面(陸、海、森など)の色の情報が含まれており、惑星からの光の分光観測は、惑星大気や表面の環境など、惑星自体の性質を詳細に知るためには欠かせない観測になります。2013年に報告されたHR8799c周りの惑星たちの分光観測からは、大気中の水やメタンなどの存在が示唆されています(Konopacky et al. 2013, Science )。日本でも近年、すばる望遠鏡を用いて太陽系外惑星の直接撮像観測が行われており、今後は京都大学岡山3.8m望遠鏡を用いた直接撮像観測も行われる予定です。

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図8 a,b ExoKyoto Stellar Windowにて表示したHR8799の位置 ペガスス座に位置する

(文責:野津翔太)

HR 8799 についての詳しい情報はこちら

HR8799 System
HR 8799 b
HR 8799 c
HR 8799 d
HR 8799 e

HD 189733 b

<Imaginary Picture of HD189733 b, Credit Daichi Ogawa, SGH Moriyama High School>

HD 189733 b は 2005 年に発見された木星サイズの太陽系外惑星で、こぎつね座 HD 189733 A 星の周りを 2.22 日の周期で回っています。太陽系からの距離は 62.9 光年(19.3 pc)です。軌道が主星から非常に近い「ホット・ジュピター」の一つで、恒星の重力により常に一つの面を主星に向けています。

https://www.nasa.gov/mission_pages/spitzer/multimedia/A-Knutson-surface.html

またこの天体は太陽系からの距離が比較的近いため、様々な観測によりその詳細な性質が調べられているのが特徴です。2007 年、スピッツァー宇宙望遠鏡の観測で、惑星表面の温度分布が観測されました。それによると、最も温度が高い場所は惑星表面で主星が真上に見える場所と 30 度ほど東にずれている事が分かりました。この事から、HD 189733 b では激しい風が吹いていて、熱を運んでいるのだと考えられています。ちなみにこの研究は、史上初の太陽系外惑星表面の「地図」の発表としても有名になりました。

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(Image Credit: Ryusuke Kuroki, Yosuke Yamashiki & Natsuki Hosono)

さらに2013年にはハッブル宇宙望遠鏡の観測により、惑星が中心の星の裏側を通り隠れる際に青色の波長の光だけが弱くなることから、この惑星の色が青色であることが分かりました。
これは水の海があるからではなく、大気中に存在するケイ酸塩粒子が高温ゆえにガラスの雨粒の様になっており、これが中心の星からの光を散乱することで青く輝いています。

同じく 2013 年にはチリの Very Large Telescope による波長分解能の高い詳細な観測から、惑星自体の H2O, CO ガス輝線放射が検出されたことでも話題になりました。そのほかこの年には、NASA のチャンドラと欧州の XMM ニュートンという2つの X 線天文衛星でこの天体を観測することにより、太陽系外の恒星の手前をその星を公転する系外惑星が横切る「トランジット」が、X 線で初めて検出されています。

(文責:野津翔太)

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(Position in Stellar Map of star HD 189733 and its Exoplanet HD 189733 b)

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(Zoomed position in Stellar Map of star HD 189733 and its Exoplanet HD 189733 b (zoom level 3))

HD 189733 b についての詳しい情報はこちら。
http://www.exoplanetkyoto.org/exohtml/HD_189733_b.html

HD 164595 b

(Imaginary Picture of Warm Neptune HD164595 b)

HD 164595 b は、2015 年に Courcol ら によって発見された、太陽系から 94 光年(28.9 pc)離れた距離にある海王星サイズの系外惑星です。

中心星 HD 164595 は、太陽と同じ G 型星(G2V)で、表面温度は 5790 度、質量は 0.99 太陽質量と、太陽とほどんど同じです。そのため、HD 164595 恒星系のハビタブルゾーンは、太陽系とほとんど同じ位置にあると考えられます。それに対して、HD 164595 b は軌道長半径 0.23 天文単位(3441万km)と、水星軌道より随分内側を公転周期 40 日で一周し、質量が地球の 16 倍、半径が地球の 4.17 倍という、熱い海王星(Hot/Warm Neptune)だと考えられます。表面温度の計測結果はありませんが、惑星のアルベドを 0.3 と仮定すると、黒体温度が 531 ケルビン(摂氏258℃)と相当高くなり、地球型生命が住むには不適切な環境ではないかと想像できます。例えばこの惑星が大型の衛星を有していたとしても、その公転軌道(離心率は低い)から、ハビタブルゾーンに位置するのは困難であると考えられます。

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(Imaginary Picture of Warm Neptune HD164595 b orbiting around its Host Star HD164595)

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(ExoKyoto(アプリ版) による HD 164595 中心星の表示画面。中心星はG型星(G2V)で、その大きさの比較が、下の段の4つに記されています。左からハビタブル・ゾーン惑星が見つかったProxima Centauriとの比較、二番目が太陽との比較(大きさがほとんど同じ)、三番目がふたご座のポルックス(Pollux)との比較、一番右側がオリオン座のリゲル(Rigel)との比較)。ハビタブル・ゾーンの表示は、太陽系相当天文単位(SEAU)で、赤い線が金星軌道相当線、緑が地球軌道相当線、青が火星軌道相当線、で、この中心星データからの推定値では、ほとんど太陽系と一致しています)
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(ExoKyoto による HD 164595 の公転軌道とハビタブル・ゾーン(Kopparapu et al. 2013 による)の表示。金星相当軌道より内側にあることがわかります)

2016 年に、この恒星系から11GHzの電波シグナルが観測されたとの発表がありました。
(CNN News)
(Wired日本語記事)

現在、11GHzの電波シグナルの真偽については様々な議論がなされていますが、上述のとおり、このシグナルが「仮に」知的生命体のものであったとしても(1)知的生命体は、この惑星 HD164595 b ではなく、「未発見の」HD 164595 恒星系のハビタブルゾーンに位置する岩石惑星に住んでいるか、(2)地球型以外の(灼熱の環境・あるいは液体の水のない環境で生息できる)知的生命体か存在するか、あるいは(3)このシグナルが知的生命体が発信したものではないか、(4)Vakoch らが述べているように、重力レンズの作用で他の天体からの電波が曲げられたか、あるいは(5)観測エラーか、のどれかであることが考えられます。

また、HD 164595 は、ヘラクレス座(ケプラー観測領域のはくちょう座とこと座周辺)に位地し、夏から秋の夜空で観測することが可能なため、興味のある方は望遠鏡を向けて観測されることをお勧めします。

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(ExoKyoto Stellar Window を用いた HD 164595 の天球上の位置表示)

HD 164595 b についての詳しい情報は、こちらをご覧ください。
http://www.exoplanetkyoto.org/exohtml/HD_164595_b.html

(文責:山敷庸亮)

51 Pegasi b

(Imaginary Picture of 51 Pegasi b as original “Hot Jupiter” Credit:Yosuke Yamashiki, Ryusuke Kuroki & Natsuki Hosono)

51 Peg b は、太陽系から 47.9 光年( パーセク)離れた恒星51 Peg を周回する系外惑星で 1995 年に公開されました。恒星 51 Peg は視等級 5.5, 絶対等級 4.7 です。この恒星は太陽の 1.1 倍の質量で、 半径は太陽の1.3 倍であり 表面温度は 5793 で、スペクトル型は G2 IVです。この恒星の惑星系で 51 Peg b は、恒星 51 Peg のまわりを 公転周期4.2 日で、 軌道長半径 0.05 天文単位 ( 7779089.3 km)で公転しています。

1995 年に人類史上初めて、スイスのミシェル・マイヨール(Michel Mayor)らにより発見された最初の太陽系外惑星です。マイヨールとディディエル・クゥエロツらは当時最新鋭の高分散分光器ELODIEを備えたフランスのオート・プロヴァンス天文台(Observatoire de Haute-Provence: OHP)にて、視線速度法によりペガスス座51番星を観測し、木星質量の惑星が太陽系の水星軌道の内側を自転周期 4.2 日で公転していることを Nature 誌に発表しました (i)。この功績により、両氏は2019年ノーベル物理学賞を受賞しました。

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(Hot Jupiter 51 Pegasi b orbiting around its host star 51 Pegasi, Credit:Yosuke Yamashiki, Ryusuke Kuroki & Natsuki Hosono)

ペガサスに騎乗したギリシャ神話の英雄ベレロポンにちなんでベレロフォン(Bellerophon)と呼ばれることもあるこの系外惑星(51 Pegasi b)は、その灼熱の推定環境にちなんでホットジュピター(灼熱の木星)と分類されました。その後、視線速度法により、数々のホットジュピターが発見されています。例えば同じペガサス座のオサイリス(Osiris: HD 209458 b)などは公転周期がわずか 3.5 日で主星のまわりを公転し、ハッブル望遠鏡により 2001 年に大気中に酸素と炭素が含まれていることが観測された初めての系外惑星です。

太陽系の形成過程の標準モデルでは、ガス惑星は中心星から遠くはなれた場所(~5AU)で形成されるとされていたため、このような中心星近傍(<0.05AU)に存在する巨大ガス惑星の形成過程は多くの議論を呼びました。その後、恒星から遠く離れて形成された巨大ガス惑星が軌道変遷により水星軌道の内側にまで移動してきた可能性が最も高いとされています。

なお、ミシェル・マイヨール氏は第 31 回京都賞を受賞され、同年にはノーベル物理学賞候補にもノミネートされました。そして、2019年には宇宙論のJames Peebles, そして共同発見者のディディエル・クゥエロツ(Didier Queloz)とともにノーベル物理学賞を受賞しました。

(i) Michel Mayor & Didier Queloz. 1995. A Jupiter-mass companion to a solar-type star. Nature 378(23): 355-359.

マイヨールとクゥエロツは、高分解能分光計(高分散分光器)ELODIEを備えたフランスのオート・プロヴァンス天文台にてペガスス座51番星(51 Pegasi)の視線速度を測定し、木星質量の惑星が太陽系の水星軌道の内側(0.05AU)を公転周期 4.2 日で公転していることを発見し、また系外惑星(51Pegasi b)が、小さな赤色矮星からガスが流れ出た残骸であるという可能性と同時に、元々恒星から遠く離れて(~5AU)形成された木星質量のガス惑星が内側に移動してきたと考えられる可能性を示しています。特に恒星 51 Pegasi の推定寿命が G 型星の寿命に近い 100 億年と推定されたこともあり、惑星軌道の変遷によりガス惑星が内側に移動した可能性があることが発表後議論されました。また、この視線速度の変化が大質量星のパルサーに由来するものではないことを明らかにし、系外惑星発見の揺るぎないデータと論述を示しました。またフィレンツェにおける研究発表を通じて、ハーバード・スミソニアン天体物理センターを含む他の天文グループにより視線速度変化の周期が 4.2 日であるという独立調査がなされ、その信頼性が確認されました。

(文責:山敷庸亮)

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(ExoKyoto Stellar Window を用いて表示した 51 Peg b の位置)

51 Pegasi b についての詳しい情報はこちら。
http://www.exoplanetkyoto.org/exohtml/51_Peg_b.html