惑星形成理論

惑星形成理論

太陽系の形成に関する古典的標準理論は「京都モデル」とよばれています。1970年代〜1980年代に、故林忠四郎先生を中心とした京都大学の研究グループによって、その基本的なシナリオが構築され、現在でも多くの惑星形成理論はこの京都モデルをベースに拡張されたものとなっています。

ここでは、近年の惑星形成理論の進展も含めた京都モデルの概要を、簡単に説明します。

 

(credit: 理科年表オフィシャルサイト)

原始惑星系円盤

宇宙空間の大部分は極めて希薄でほとんど何もない世界ですが、その中にときどき周りよりも少しだけ密度の高い領域が存在しています。この領域を「分子雲」とよびます。この分子雲が自分自身の重力で潰れていって、どんどん密度が上がっていくと、やがて「星」が誕生します。

非常に大きなサイズの分子雲が、非常に小さなサイズの星に進化していく際、最初に持っていたわずかな「回転」の動きが加速され、分子雲は急速に回転をすることになります。フィギュアスケートで、手を広げてスピンをしていた選手が、最後に手を縮めると回転速度が一気に速くなるのと同じ原理です。

もともと分子雲は、自己重力であらゆる方向から潰れようとします。ところが、分子雲の回転が速くなると、回転軸に垂直な方向にだけ遠心力がはたらき、自己重力に抗うことになるため、こちらの方向には潰れることができなくなります。その結果、回転軸の方向には潰れる一方、それに垂直な方向には潰れないことで、薄い円盤状の構造ができあがっていきます。

こうして星の周りにできあがった円盤のことを「原始惑星系円盤」とよびます。惑星は、この原始惑星系円盤の中で誕生することになります。

 

微惑星の形成

太陽をはじめとする星は、ほとんど水素とヘリウムのガスの塊です。そのため、原始惑星系円盤も99%はガスでできているのですが、その中に1%ほどの固体物質がマイクロメートルサイズの「ダスト」として含まれています。

星に近いところ、つまり温度の高いところには、主に鉄と岩石のダストが存在し、星から遠いところには、それに加えて氷のダストも存在します。ちなみに、温度が下がり氷のダストが出てくる軌道のことを「雪線(スノーライン)」とよびます。

こうしたダストは、互いに付着合体を繰り返し、最終的に数キロメートルサイズの「微惑星」へと成長します。(注)

 

原始惑星の形成

微惑星は、お互いの重力で引き合い、衝突合体を繰り返します。このとき、大きくなった微惑星ほど重力が強く、またサイズが大きいため衝突もしやすくなるため、衝突合体のペースが速くなります。つまり、最初にちょっとだけ大きくなった微惑星が、他の微惑星を差し置いて、どんどん大きくなっていくことになります。この過程を「暴走成長」とよびます。

暴走成長は、原始惑星系円盤内で適当な間隔をおいて、それぞれの場所で進行していきます。その結果、最初多量にあった微惑星は、最終的に少ない数の「原始惑星」を形成することになります。この過程を「寡占成長」とよびます。

原始惑星の大きさは、地球軌道付近ではおよそ火星サイズ(地球の1/10程度の重さ)になります。一方、雪線より外側の木星軌道付近では氷も固体物質として使えるため、微惑星の量が増え、原始惑星もおよそ地球の10倍程度のサイズにまで成長します。

 

地球型惑星の形成

原始惑星は、お互いの重力により長い時間をかけて互いの軌道を乱し、いずれ衝突合体を起こします。この原始惑星同士の衝突のことを「ジャイアントインパクト」とよびます。例えば地球の場合、火星サイズの原始惑星10個ほどが互いにジャイアントインパクトを繰り返し、地球サイズにまで成長したと考えられます。

最終的に、原始惑星同士の間隔が十分に広くなり、衝突合体が終了したところで、「地球型惑星」の形成が完了することになります。

ちなみに、ジャイアントインパクトの際の衝突破片が原始惑星の周りにばらまかれ、その破片が集まることで「月」が形成されると考えられています。

 

巨大ガス惑星・氷惑星の形成

原始惑星は、サイズが大きくなるに従い、原始惑星系円盤内のガスを自分の重力で捕獲し始めます。このとき、原始惑星の重さが地球程度であれば、捕獲したガスは大気圧によって支えられ、原始惑星は安定した大気を持つことが可能です。

ところが、原始惑星の重さが地球の10倍程度になると、重力が強すぎるために捕獲したガスを大気圧で支えることができなくなります。その結果、原始惑星系円盤内のガスが原始惑星に暴走的に流れ込み、周囲のガスが全て無くなるまでガスの流入が止まらなくなります。

これにより、一気に大量のガスをまとった「巨大ガス惑星」が形成されることになります。

ただし、星から非常に遠いところでは原始惑星の形成が遅くなるため、地球の10倍程度の原始惑星ができた頃には、原始惑星系円盤内のガスが既に無く、ガスをまとっていない「巨大氷惑星」が形成されることになります。

 

系外惑星の形成

以上のシナリオは、もともと太陽系の形成過程を説明するために提案されたものでしたが、基本的・普遍的な物理法則のみに則った理論であるため、系外惑星の形成にも応用が可能だと考えられています。

もちろん系外惑星の中には、ホットジュピターやスーパーアースなど、太陽系には存在しないタイプの惑星もたくさんあります。しかし、これらの「ヘンな」惑星たちも、京都モデルを部分的に拡張してあげることで、その形成過程を説明する研究が、たくさんなされています。

このことは逆に言うと、太陽系の惑星は特殊でも奇跡的な存在でもなく、同じような形成過程を経て作られた系外惑星が、宇宙中いたるところにあふれている、という可能性を示しているといえるでしょう。

 

(注)実は、ダストの付着合体を阻害する要因が複数あるため、本当のところ微惑星がどうやってできるのか、についてはまだよくわかっていません。現在も、微惑星形成については、多くの研究が進められているところです。

(文責:佐々木貴教)