WASP-121 b

WASP-121 b は、太陽系から 853.8 光年( パーセク)離れた恒星WASP-121 を周回する系外惑星で 2015 年に公開されました.
恒星 WASP-121 は視等級 10.4, 絶対等級 3.3 です.
この恒星は太陽の 1.4 倍の質量で、 半径は太陽の1.5 倍であり 表面温度は 6460 で、スペクトル型は F6Vです。
この恒星の惑星系で WASP-121 b は、恒星 WASP-121 のまわりを 公転周期1.3 日で、 軌道長半径 0.03 天文単位 ( 3805769.8 km)で公転しています。

公転と自転周期がほぼ同時のホット・ジュピター。昼半球と夜半球の気温差によりルビーやサファイアの雨?

2015年に太陽系外惑星探査プロジェクトスーパーWASPによる観測で発見された。
地球から「とも座」の方向におよそ880光年離れた位置にある灼熱巨大ガス惑星で、F型主系列星WASP-121の周囲を公転している。質量は木星の約1.2倍、半径は木星の約1.8倍で、恒星(WASP-121)から380万kmとかなり近い距離を1日余り(約30時間)で公転する。表面温度は約2000 K、上層大気は約2500Kにもなる「ホット・ジュピター」の一つ。
自転周期が公転周期とほぼ同じで、半面は常に恒星を向く昼半球(もう半面は常に外を向く夜半球)となるのが特徴的。
夜半球ですら気温が1500℃を超えるので、地球の様な水の雲ではなく、鉄やマグネシウム、クロム、バナジウムといった金属で構成される雲が存在している。
2017年、ハッブル宇宙望遠鏡による観測でWASP-121 bの大気組成が水蒸気、酸化バナジウム(II)、酸化チタン(II)が含まれている事が明らかになり、成層圏が存在することはほぼ間違いないとされる。

2019年、恒星に近いことから潮汐力によってWASP-121 bは引き裂かれる寸前といえる状態で、フットボールのような形状になっていると考えられる。David Sing氏らはハッブル宇宙望遠鏡に搭載されている「宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)」の観測データを使い、雲のなかに凝縮している鉄やマグネシウムといった金属までもが、軽い元素(水素やヘリウム)とともに惑星から離れた宇宙空間へ流出していることを確認した。

2022年、ハッブル宇宙望遠鏡でWASP-121 bの昼半球と夜半球の両方のスペクトル解析により、地球とは異なる水循環が確認された。常に恒星を向く昼半球では上層大気の温度が最大で3000℃を超え、水は蒸発してさらに水素と酸素に分解される。一方、夜半球の上層気温は1500℃にまで下がるため、昼半球と夜半球で1500℃も気温差が生まれることで強風が吹き抜け、水素と酸素を夜半球まで運び、夜半球側で水素と酸素が再結合して水蒸気となり、そのまま再び昼半球に吹き込むという循環をもつ。天文物理学者のTansu Daylan氏によると、この強風は20時間程度で惑星全体の雲を移動させることができるとされる。
WASP-121 bにて様々な金属元素(バナジウム、鉄、クロム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、ニッケルなど)は確認されたが、アルミニウムやチタンが検出されなかった。研究チームはアルミニウムやチタンが凝縮し地表に降り注いでしまったためだと推測し、アルミニウムは大気中の酸素と凝結すると「コランダム」という鉱物になり、コランダムにクロムや鉄、チタン、バナジウムなどの不純物が含まれるとルビーやサファイアになるため、WASP-121 bの夜半球に液体のルビーやサファイアが雨となって降り注いでいる可能性があると推測した。

Delrez, L. et al. (2016). “WASP-121 b: a hot Jupiter close to tidal disruption transiting an active F star”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 458 (4): 4025-4043. arXiv:1506.02471. Bibcode: 2016MNRAS.458.4025D. doi:10.1093/mnras/stw522. ISSN 0035-8711.
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(文責:小川)

Imaginary picture of WASP-121 b

Imaginary Picture of WASP-121 b: Illustrated by Yuna Watanabe

投稿者: exoplanetkyo